夜明けの怪人図書館

不定期更新。やっぱり本が好き。

西尾維新『少女不十分』

少し、思い出に残っている本がある。

とは言っても(書いても?)、青春時代を共にしたとか、愛しい人からプレゼントされたとか、そういった綺麗な思い出ではなく、「自分ではイケたと思ったのに、表に出なかった」タイプのヤツだ。

 

私は、書籍関係の仕事を何年かやっていた経験がある。

その仕事の中で、光栄にも地元の新聞に記事を書く機会を得た。ライター業などやった事がない私だが、書籍関係の仕事をしている人がオススメの本を紹介するという企画に参加させてもらったのだ。

結果的に私は2~3回くらい本を紹介させてもらったが、その時に残念ながらボツになってしまったものが幾つか存在する。そのうちの一つが、これだ。

 

 

西尾維新少女不十分

 

作家の“”が10年前に経験した事件。

大学生の“僕”は、小学生の女の子がトラックに轢かれる事故現場に遭遇する。

しかしこの時“僕”は、轢かれた女の子の友達らしいもう一人の女の子“”の、ある奇妙な様子を目撃してしまう。

事故から一週間後、“僕”は“U”に誘拐される。

 

クビキリサイクル 青色サヴァン戯言遣い』以来、西尾維新先生のファンだった私。

2011年に発売された『少女不十分』は、同じ講談社ノベルスから発売された待望の最新作だった。

 

しかしまぁ、その表紙はこれまでのどの西尾維新作品と比べても異色。

暗い雰囲気の中に、寒気がするほど美しい少女の絵。幼さの象徴たるランドセルとリコーダーが自然なまでに不自然、不自然だけど自然で、あまり熱弁しすぎると特殊な趣味嗜好を疑われそうなのでこの辺で止めておくが、ともかく異彩を放っていたのだ(イラスト担当の碧風羽先生は天才だよ)。

 

そして中身は、安定と信頼の西尾維新節。

よく見ると奇妙なもの、よく考えると奇怪なもの、理解するには悍ましいもの。

あらすじを見てもらったら、もう奇妙な事に気付くだろう。要は、男子大学生が女子小学生に誘拐されるという話だ。男子大学生が女子小学生を誘拐する、「もしもしポリスメン?」な話ではない。

女子小学生が男子大学生を誘拐できてしまう時点で「腕力でどうにかなるんじゃない?」と思うだろうが、明記しておこう、“僕”は“U”に監禁される。するんじゃない、されるのだ。

 

だが流石はミステリ出身の西尾維新先生だ、終盤では“U”が事故現場でとった奇妙な様子の正体も明かされるし、タイトルの『少女不十分』の意味も理解できるだろう。

10年前の回想というのも、ある意味では伏線だろう。劇中でもそれっぽい事が明言されているが、このシチュエーションは現代を舞台にしたら、何も面白くないまま本文が3分の1で終了してしまう。

 

先述の通り、私はこの本を地元新聞の企画で紹介しようとした。

候補に上がり、速攻で読破して、その原稿もほぼ出来上がっていたのだが、上司から「もっと広い層にウケる本にして」と却下されてしまったのだ。何故候補に上がった時に言わなかったんだ。

結果的にこの時は別の推理小説で紹介記事を書いたのだが、やっぱりこの本をボツのままにするのは悔やまれるし、もう時効だろうから数年の時を経て、自分のブログで好きに書かせていただいたワケだ。

 

ちなみに。

この『少女不十分』は講談社文庫から文庫本としても発売されているし、ヤングマガジンコミックスでコミカライズもされている(全3巻・完結)。

コミカライズの方は、『さんかれあ』で御馴染みのはっとりみつる先生が作画。やはり黒髪美人が巧い漫画家さんが描くんだなぁ。

 

 

★今回の一冊

『少女不十分』(講談社 / 2011年)