夜明けの怪人図書館

不定期更新。やっぱり本が好き。

香山滋『ゴジラ』

この旋風、まだ冷めやらぬ…。

 

さて、今回のテーマは去年夏の映画のヒットも記憶に新しい『ゴジラ』の小説版だ。

 

1954年に映画公開され、世界的人気を誇る怪獣映画『ゴジラ』。

去年夏に全国公開された『シン・ゴジラ』は、“怪獣”というデフォルメ化・マスコット化・キャラクター化した現在のゴジラ像を見事に破壊。巨大不明生物は日本中を未体験の恐怖と畏怖で震え上がらせた。

1954年の初代『ゴジラ』の小説は原作者の香山滋によって執筆され、小説自体が何パターンかバリエーションがあるが(小説を原作に映画化したのではなく、映画製作を前提に執筆した為と思われる)、今回は書店等で比較的入手しやすいちくま文庫を紹介する。

 

 

とはいえ、ストーリーやその設定の素晴らしさに関しては、私がここで熱弁するよりDVDをレンタルしてきて一度観てもらった方が早いだろう。ちくま文庫版には、映画二作目『ゴジラの逆襲』の小説も収録されている。

ここでちょっと注意して頂きたいのは、主人公だ。映画では南海サルベージ所長の尾形秀人が主人公だが、小説版では山田新吉が主人公になっている。映画ではチョイ役の新吉の視点で描かれる…というスピンオフ的なワケではなく、尾形と新吉の名前が丸々入れ替わっているようなカンジだ。ストーリーの大きな流れは変わらないが、映画と小説の両方を知っている人は最初、混乱してしまうかもしれない。

 

また、ちくま文庫版には『獣人雪男』の小説も収録。

この作品も、東映製作、香山滋原作、本多猪四郎監督、円谷英二特技監督ゴジラシリーズとスタッフはほぼ同一なのだが、諸事情でソフト化されていない貴重な作品だ。

 

 

ただ、個人的に面白いと思っているのは同時収録されているエッセイの方だ。香山氏の『ゴジラ』の裏側というか、本音というか、色んなものがポロリしている。

少しだけ紹介すると、香山氏は『ゴジラ』がヒットした事で雑誌編集者から「ゴジラ』みたいなのを書いて下さい」と依頼され、未知の怪物が登場する小説を執筆。結果、二ヶ月病気で寝込んだそうな

 

香山滋氏は本来、冒険小説を得意とする作家。なのに『ゴジラ』がヒットしたら「怪獣作って」。う~ん…。

アニメ業界の、こんな話を小耳に挟んだ。『君の名は。』が流行った時は、スポンサーが「新海誠作品みたいなのを作れ」と言い出したらしい。『けものフレンズ』が低予算ながら大ヒットした際は「あのくらいの低予算で同じくらいのヒット作を作れ」だそうな。

目先の流行に便乗して出資者が「はぁ?」な無理難題を吹っ掛けるのは、いつの頃も変わらないのかなァ…(苦笑)

 

ちなみに、この記事を書くにあたって『香山滋全集』のうちの何冊かに目を通した。

今回参考にした別巻の中に、エッセイの中に記されていた怪獣小説が収録されていた。

マンモスとゴジラを足した『マンモジーラ』、ライオンとゴリラを足した『キング・ゴリオン』、ワニとサイを足した上に電気を放つ『怪獣カリガ』など…。

寝込むまでにストレスを溜めながらこれらを執筆したのだろうか。何というか……お疲れ様でした。

 

 

★今回の一冊

ゴジラ』(2014年 / 筑摩書房

 

★参考文献

香山滋全集 別巻 評論・年譜他』(1997年 / 三一書房

アレクサンドル・デュマ『モンテ・クリスト伯』

今回のテーマは、このブログを立ち上げるキッカケになった本だ。

かなり長編の為、実はこの記事を書いている時点でこの本を読破していない。なので今回は「読んで面白かった回」ではなく「現在進行形で読んでるよ回」だと思ってくらさいな。

それで、今回はこれ。

 

 

アレクサンドル・デュマモンテ・クリスト伯

※邦訳されたものは何種類か存在するが、今回は岩波少年文庫版を参考に。

 

 ファラオン号の新たな船長として将来を期待され、恋人との結婚をも控えた青年:エドモン・ダンテス。まさに幸福の絶頂だった彼だが、婚約披露宴で突如無実の罪で逮捕され、地下牢獄に幽閉されてしまう。

囚人の神父の導きで教養を身につけた彼は、14年後に脱獄。莫大な財を得てモンテ・クリスト伯を名乗り、社交界にデビュー。自分を貶めた者達に復讐を始める。

 

日本では明治に黒岩涙香が翻訳し、『巌窟王』のタイトルでも知られるこの作品。

2004年に日本で『巌窟王』のタイトルでアニメ化されたので、そちらを知っている人も多いかもしれない。

このアニメは「エドモン・ダンテスがモンテ・クリスト伯爵になって報復する」形式から視点や設定を一部変更し、「社交界にデビューしたモンテ・クリスト伯爵とはどんな人物か?」の過程でエドモン・ダンテスを描いている。

 

私はこの本を、友人経由で知った。

友人はアニメの『巌窟王』から原作の『モンテ・クリスト伯』に興味を持ち、そして一緒にお茶した時に薦められたのだ。

図書館で借りて読んでみたら、これは大変だ。一度読み始めたら止まらないし、「まさかスタンド攻撃…?!」と言わんばかりに、時間があっという間に過ぎていた。

一度、「仕事を遅番で終え、翌朝にも用事がある」という事があった。中途半端に寝たら寝坊してしまうのではと思った私は、この本を開いた。気付いたら外が明るくなっていた

後でこの話をその友人にしたら「寝る前に読んじゃダメだよ!(笑)」とツッコミを受けた。

 

この本を友人に薦められた時、「アレクサンドル・デュマって『三銃士』の作者だよね?」と話題になった。

そのまま読書トークになり、これがかなり盛り上がった為に「次のブログは本をテーマに絞ろう」と決めたのだ。

 

余談。

読書トークで一番盛り上がったのは、海外文学によくある敬称について。

日本では馴染のない騎士の称号や、「○○卿」「老○○」「ドン・○○」…。物語が長いと、一人の人物なのに途中で役職や地位や称号が変わり、名前の表現が変わってしまうパターンも、無くはない。

 

こういう話ができる友人に恵まれた事に、感謝だ。

 

 

★今回の一冊

モンテ・クリスト伯』(2000年 / 岩波書店

ウルトラマンタロウ『ウルトラマンの愛した日本』

ウルトラの父がいる。ウルトラの母がいる。そしてタロウがここにいる。

少し前に仮面ライダーの図鑑を話題に挙げたが、今回はウルトラマンがテーマだ。

元々特撮大好きな私だ、特撮ネタが多くなってしまうかもしれないが、これから紹介する本はウルトラマンが書いた本だ。

 

 

ウルトラマンタロウウルトラマンの愛した日本

 

作者は日本人ではないどころか、地球人ですらない。ウルトラマンタロウだ。

円谷プロが監修した? 円谷の関係者が書いた本? ノンノン、この本の作者はウルトラマンタロウだ。

表紙や奥付には和智正喜氏の名前もあるが、この人はウルトラマンタロウが光の国の言語で書いた文章を、日本語に翻訳した方だ。

誰が何と言おうが、この本の作者はウルトラマンタロウだ。カバーや奥付の作者紹介でも『ウルトラマンT』の登場キャラクターとしてではなく、光の国の戦士としてのプロフィールが書かれている。

本文によると、宝島社の方から執筆を依頼したらしい。なんと、宝島社はウルトラの星とコンタクトできるのか…!

 

最初に地球に降り立った1966年のウルトラマンから、2012年に劇場公開されたウルトラマンゼロの戦い。この本はこれらと共に、各世代の風景や流行や生活観を振り返るという内容だ。

世界や宇宙に夢見たウルトラマンの世代。冷戦時代と見えない恐怖のウルトラセブン世代。

ウルトラマンジャックの頃には公害に関係した怪獣も登場したし、ウルトラマンレオが地球に来た頃にはオイルショックの影響や終末思想が流行したらしい。

 

年代は少し開いてしまうが、ウルトラマンティガが活躍した時、防衛隊のリーダーは女性だった。

ウルトラマンガイアとウルトラマンアグル、二人のウルトラマンの正義が対立する事もあった。

長い間、地球を守り戦ったウルトラ戦士達。彼等が戦ってきた背景を見ると、その頃の日本が見えてくるのだ。

 

実は「ウルトラシリーズを見ればその時代がわかる」な考察本は、これがオンリーワンなワケではない。

だがしかし、この本を執筆したのはウルトラマンタロウ。宇宙人から視た日本に、時に優しく、時に厳しい意見も書かれている。

同時に「セブン兄さん本人に尋ねてみたが…」「ストリウム光線が決まった時はホッとしたが……」と、時々ウルトラマンタロウの主観が入る

この特徴は、ウルトラマンタロウが執筆した故の特権。ファンはニヤリとするはずだ。

 

そうそう。

私はイベントで二度、ウルトラマンタロウとお会いしている。一度目は彼の必殺技のストリウム光線のポーズを、二度目ではウルトラマンオーブ バーンマイトの決めポーズを伝授してもらった。

次に会えるのはいつだろう。この本にウルトラサインを書いてもらおうかしらん?

 

 

★今回の一冊

ウルトラマンの愛した日本』(宝島社 / 2013年)

飯田ぽち。『姉なるもの』

僕のお姉ちゃんは、悪魔だ。

 

すまない、私には姉などいない。ぶっちゃけてしまえば、長男であり妹がいるのでお兄ちゃんではあるが…。

だからこそフィクションの世界の、頼れるお姉さん、凛々しいお姉様、優しいお姉ちゃんというものに、憧れを抱いてしまっても仕方無いのだ。……よし、事前の言い訳は済んだな! そんなわけで、今回の一冊はコチラ。

 

飯田ぽち。姉なるもの

 

両親を事故で亡くし、親戚の家を転々としていた少年:

彼は世話になっていた家の蔵で、美しい女邪神に遭遇する。

あなたの願い事はなあに?

家族を欲する夕は、女邪神に「お姉ちゃんになってください」と願う。

女邪神は彼の願いを聞き入れ、夕の姉:千夜として共に生活する事になる。

 

家族愛に飢えた少年がある日突然、綺麗すぎるお姉ちゃんと共同生活。羨ましいなコノヤロウ。

私は上記で千夜を“女邪神”と表記はしたけれど、正式には何と表現したらいいのだろう、劇中では“千の仔孕む森の黒山羊”と自己紹介し、悪魔とも邪神とも呼ばれていた模様。要は、名状しがたく冒涜的かつクトゥルフ的なサムシングである。

 

そしてが彼女に願った事は、「お姉ちゃんになってください」。

この台詞だけを抜粋すると誤解を与えてしまいそうなので補足しておくと、一緒に食事したり散歩したり、洗濯や掃除といった家事をしたり……。当たり前と言ってしまえば当たり前な、そういう事を彼女に願う。

千夜という人間として夕と共に生活するようになった、女邪神。時々的外れな事をしたり、触手がウネウネしたりもするが、千夜も千夜で「お姉ちゃんは弟を大事に想うもの」と、人間のそれと変わらない愛情を注ぐ。たまに過激な事もやってしまうが

 

ちなみにこの作品は元々、成人向けの同人誌が最初。

『電撃G'sコミック』および角川グループの無料漫画サイトで一般向けに連載され、単行本化という流れになっている。今回私がピックアップしているのは、あくまで一般向けの方だ。

同人誌の方も完結や中断をせず、継続して展開される。18歳未満のヤングマンはうっかりこっち側を覗き込んでしまわぬよう、ご注意を。部屋を掃除したお母さんに見つかって家族会議になっても、私は責任取らないからね!

 

体は大人、中身は子供、最初にダイナミック言い訳した通りの非常に面倒臭い私という人間が、とある本屋のコミックコーナーでこのマンガの試し読み冊子を見つけ、パラパラ読んで購入を決意したのも致し方無い話。

物心ついた頃には既に“お兄ちゃん”だった故に、素直に甘えさせてくれる存在に憧れてもいいじゃない。にんげんだもの

 

あと、ちょっとマニアックかもしれないが。

千夜の声は佐藤利奈で脳内再生してる。

 

 

★今回の一冊

姉なるもの』(KADOKAWA / 2016年)

前嶋重機『デュランダル ー不朽の刃ー』

最初に明記しておこう。私はこの本を複数冊持っている。

そしてもう一つ明記しておこう。何冊だって買うつもりだ。

 

 

前嶋重機デュランダル ー不朽の刃ー

 

このマンガについて語る前に、このマンガに行きついた経緯を簡単に説明すると…。

私が絶賛大ハマり中の某ゲームに、キャラクターデザインで参加しているのが、このマンガの作者の前嶋重機先生だ。

ゲームもそうだが、私は前嶋先生がデザインしたヒロインの一人に現在進行形でガッツリ惚れ込み、Twitter上でも好きだ好きだと発信しまくった。

 

ある日、前嶋先生のTwitterアカウントから、私の突撃ラブハートなツイートに“いいね”が付いた。ゲーム公式側の人が、いちファンのツイートなんか気にしないだろうと思ってたら、まさか生みの親とのコンタクト。

勿論キャラクターに対してネガティブな感想は抱いていないが、逆に好きすぎて熱暴走ツイートしていた私。悪い事はしていないが、正直、流石にヘンな焦りはあった。

恐れ多くもあり、素直に嬉しくもあったので改めてリプを送って挨拶。ぶっちゃけ「気持ち悪いです、やめてください」と言われても仕方無いのに、丁寧な返事を送って下さり、すっかり心を打たれた。

私の阿呆なツイートにも寛大どころか、「このキャラクターのデザインって○○ですか?」の質問のリプに回答もして下さった。もうリスペクトどころの騒ぎではない、お義父様と呼ばせていただきます(←迷惑)。

 

そんなわけで私は前嶋先生には感謝しかないのだが、このマンガを複数冊持っているというのはその表れというか、意思表示というか。

重版未定なのか絶版なのか、新品はほぼ入手不可能なようで、古本屋やネットで中古を探すしかない。何冊買っても前嶋先生にお金が行かないので自己満足だと言われればその通りなのだが。

 

そしてその内容は…。

舞台は架空の国・グラントリアン王国。お転婆な姫・セリーヌの居城は、ある夜敵国からの襲撃を受ける。

母から王位継承の指環を渡されたセリーヌは国を護る為、王太子すなわち男として生きる決意をする。

同じ頃、高度な科学と技術力を持つ月の世界から、機族(ギニョール)が降り立つ。

カバーでは「ファンタジー大河ロマン」と紹介。舞台のモチーフはヨーロッパ(フランスあたり?)だろうか。一コマ一コマが繊細美麗で、特に月世界から降り立つ機族のデザインは必見だ。

 

国の対立、姫の策略、月の使者、12年前の悪夢…。

気になる要素もイッパイなのだが、残念なことに2巻目は発売されていない。

何か事情があったのかは知らないが、個人的には続きが知りたい。第四、第五の機族ってどんなのだったのー?!

そういうワケで、古本屋を見つけると電撃コミックスの棚は必ずチェックする(本当は新品を買えれば一番イイのだが…)。誰か、情報があったら教えて下さいな。

 

余談。

高校の頃に『戦う司書と恋する爆弾』というライトノベルを読んだ事があり、アニメ化された際は勿論観ていた。

つい最近になって、このライトノベルの表紙・挿絵を前嶋先生が担当していたと知って、ミョーな縁を勝手に感じたのだった。

 

 

★今回の一冊

デュランダル ―不朽の刃―』(アスキー・メディアワークス / 2011年)

テレビマガジンデラックス『決定版 全仮面ライダー超百科』

Twitterや、新装開店前のブログを見ていた人ならば周知の事実だろうが、私は大の特撮ヒーローマニアである。

以前のブログは、話題の9割近くが特撮に関する事だった。だから新装開店してテーマを本に絞った事に「?」と思う人もいるかもしれない。

 

私の特撮好きの原点は、やっぱり本だ。

今でこそスーパー戦隊平成ライダーウルトラマンに……と放送しているが、私が幼い頃はちょうど仮面ライダーウルトラマンも放送していない時期だった。幼稚園児の頃に『ウルトラマンティガ』が始まった、と書けば大体の年代がわかるだろうか。

そう、仮面ライダーがTV放送していない時期があったのだ。想像できるかい、今の子供達よ?(熱弁)

 

ただ、そんな時期に育った私が仮面ライダー大好き人間になったのには、両親が買ってくれた1冊の本が影響している。

 

 

決定版 全仮面ライダー超百科

 

物心ついた頃には既にこの本があって、具体的にいつ買ってもらったかは覚えていない。調べてみたら、仮面ライダーシリーズ20周年を記念して、1991年に発売されたものだった(私のものは1994年に発行された6刷だったが)。

 

1971年に放送された、初代『仮面ライダー』の本郷猛=仮面ライダー1号から、当時最新だった仮面ライダーBLACK RXまで、全11人。

ライダーだけでなく、電波人間タックルシャドームーンも項目を設けて掲載。1号と2号とスカイライダーは新1号と新2号、新スカイライダーとして別項目に。RXも、バイオライダーとロボライダーで別ページを用意して紹介している。

児童書だが、RXまでの昭和ライダーの資料としてこれほど詳しいものはないだろう。

 

仮面ライダー不在の幼少期、私はこの本で仮面ライダーの活躍を知り、そしてその雄姿に想いを馳せていたワケだ。

20年近く前の本だが、クローゼットの奥から出てきた時には流石に「捨ててなかったのか!」と興奮した。当時は乱暴に扱ったのだろう、所々に折れや鉛筆の線があり、カバーも無い。

だが、私の昭和ライダー好きは間違いなくこの本の影響だし、今でも特撮マニアの情報ソースとして大いに貢献してくれている。

 

これの他に、ウルトラマンの大百科みたいな本があった記憶があるのだが、残念ながらそれは紛失してしまったようだ。

 

大型連休になると、各地でヒーローショーが開催される。ステージ上でピンチになっている仮面ライダーに「がんばれー!」と声をかける子供達は、佐藤健水嶋ヒロ仮面ライダーだった事を知らない。

それどころか、今の高校生はオダギリジョーが変身していたのをリアルタイムでは知らない世代だ。

ヒーローを応援する気持ちは変わらないが、歳をとったモンだ…。

 

 

★今回の一冊

テレビマガジンデラックス 13 決定版 全仮面ライダー超百科』(講談社 / 1991年)

西尾維新『少女不十分』

少し、思い出に残っている本がある。

とは言っても(書いても?)、青春時代を共にしたとか、愛しい人からプレゼントされたとか、そういった綺麗な思い出ではなく、「自分ではイケたと思ったのに、表に出なかった」タイプのヤツだ。

 

私は、書籍関係の仕事を何年かやっていた経験がある。

その仕事の中で、光栄にも地元の新聞に記事を書く機会を得た。ライター業などやった事がない私だが、書籍関係の仕事をしている人がオススメの本を紹介するという企画に参加させてもらったのだ。

結果的に私は2~3回くらい本を紹介させてもらったが、その時に残念ながらボツになってしまったものが幾つか存在する。そのうちの一つが、これだ。

 

 

西尾維新少女不十分

 

作家の“”が10年前に経験した事件。

大学生の“僕”は、小学生の女の子がトラックに轢かれる事故現場に遭遇する。

しかしこの時“僕”は、轢かれた女の子の友達らしいもう一人の女の子“”の、ある奇妙な様子を目撃してしまう。

事故から一週間後、“僕”は“U”に誘拐される。

 

クビキリサイクル 青色サヴァン戯言遣い』以来、西尾維新先生のファンだった私。

2011年に発売された『少女不十分』は、同じ講談社ノベルスから発売された待望の最新作だった。

 

しかしまぁ、その表紙はこれまでのどの西尾維新作品と比べても異色。

暗い雰囲気の中に、寒気がするほど美しい少女の絵。幼さの象徴たるランドセルとリコーダーが自然なまでに不自然、不自然だけど自然で、あまり熱弁しすぎると特殊な趣味嗜好を疑われそうなのでこの辺で止めておくが、ともかく異彩を放っていたのだ(イラスト担当の碧風羽先生は天才だよ)。

 

そして中身は、安定と信頼の西尾維新節。

よく見ると奇妙なもの、よく考えると奇怪なもの、理解するには悍ましいもの。

あらすじを見てもらったら、もう奇妙な事に気付くだろう。要は、男子大学生が女子小学生に誘拐されるという話だ。男子大学生が女子小学生を誘拐する、「もしもしポリスメン?」な話ではない。

女子小学生が男子大学生を誘拐できてしまう時点で「腕力でどうにかなるんじゃない?」と思うだろうが、明記しておこう、“僕”は“U”に監禁される。するんじゃない、されるのだ。

 

だが流石はミステリ出身の西尾維新先生だ、終盤では“U”が事故現場でとった奇妙な様子の正体も明かされるし、タイトルの『少女不十分』の意味も理解できるだろう。

10年前の回想というのも、ある意味では伏線だろう。劇中でもそれっぽい事が明言されているが、このシチュエーションは現代を舞台にしたら、何も面白くないまま本文が3分の1で終了してしまう。

 

先述の通り、私はこの本を地元新聞の企画で紹介しようとした。

候補に上がり、速攻で読破して、その原稿もほぼ出来上がっていたのだが、上司から「もっと広い層にウケる本にして」と却下されてしまったのだ。何故候補に上がった時に言わなかったんだ。

結果的にこの時は別の推理小説で紹介記事を書いたのだが、やっぱりこの本をボツのままにするのは悔やまれるし、もう時効だろうから数年の時を経て、自分のブログで好きに書かせていただいたワケだ。

 

ちなみに。

この『少女不十分』は講談社文庫から文庫本としても発売されているし、ヤングマガジンコミックスでコミカライズもされている(全3巻・完結)。

コミカライズの方は、『さんかれあ』で御馴染みのはっとりみつる先生が作画。やはり黒髪美人が巧い漫画家さんが描くんだなぁ。

 

 

★今回の一冊

『少女不十分』(講談社 / 2011年)